やまね洞の本棚には、黄色の表紙の菊判変サイズの本が1冊あります。
厚みは約1センチ。
タイトルは
―まっくらな中での対話― 感じる 聞こえる みえてくる
とあります。
NPO法人のダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンが発行した、イベントカタログです。
初版は2004年、手元のものは2006年でした。たしか、南青山の梅窓院が会場だったと思います。
今ではご存じの方もだいぶふえたのではないかと思いますが、当時はまだ、日本での常設を目指していたと記憶しています。ドイツで行われていたこの取り組みを2000年ころから日本でもやろうという話で、東京で体験できるよと聞き、猫店主も参加しました。
普通の健常者が、光のない世界を、視覚障害を持つ人に案内されて体感するワークショップ、それがダイアログ・イン・ザ・ダークです。
どうやって作ったのかいまだにわかりませんが、本当に真っ暗な空間に、視覚障害を持つアテンドさんの声と杖を頼りに入っていき、いろいろなことを体験します。
普通の空間であれば、電気を消しても、しばらくすると目が慣れて、薄ぼんやりと何があるとか、通路を認識できるようになりますが、あの空間では、しっかり目を開けているのに、いつまでたっても一切何も見えないんです。
頼りになるのは、自分の足と手。あとはアテンドさんの呼びかけ。
その中で、橋を渡ったり、枯れ葉を踏みしめたり、ドリンクをもらって飲んだり。
ほかでは絶対に体験できない独特な空間で、暗闇の中で生きるということをほんの少しだけ知ることができたように思います。
その後、紆余曲折はありましたが、現在も活動は続いています。今では、企業の研修もするようになったとか。この活動の主宰者である志村真介氏が、その経緯と思いをまとめられています。
今も、ふとしたときに、あの暗闇の空間を思い出すことがあります。
あの体験をしなければ、実感することはできませんでした。ふだん自分が過ごしている空間を光をなくした人がどう感じて、どう過ごしているのかがちょっとですがわかります。